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20171103.04.05

和歌山巡検

 本巡検は「NHKスペシャル 列島誕生ジオジャパン 激動の日本列島誕生の物語」を基に,大学院の授業の一環として紀伊半島南部を舞台とし行われたものである。紀伊半島南部は南紀熊野ジオパークとして認定されており,プレートの沈み込みに伴って生み出された3種類の大地を観察することができる。本巡検では紀伊半島南部を古座川串本エリア,周参見エリア,白浜エリアの3つのエリアに分け,それぞれで付加体堆積物,前弧海盆堆積物,火成岩体の観察を行った。

 古座川の一枚岩

紀伊半島南東部には新第三紀層にあたる熊野層群と火成岩体である熊野酸性岩類が分布している。古座川の一枚岩は高さ約150m,幅約800mの一枚の巨岩であり,
熊野酸性岩類の活動の最終段階でカルデラ噴火の際に火道にたまった結晶質凝灰岩からなる弧状岩脈の一部をなす。

古座川右岸から一望した一枚岩。画像下部に写る人が良いスケールを出している。

河原に花崗斑岩の転石を発見した。これは弧状岩脈下部のものであり,マグマだまりから枝分かれして上昇してきたマグマがややゆっくりと冷え固まったものである。成分としては一枚岩と同じものであると考えられる。

河原の岩石をよく観察すると,岩石たちがみな同じ方向に傾いていることを,地研のHOPE(学部3年)が発見した。これはインブリケーションであり,傾きによって水がどちらに流れているかがわかる。数日前に台風が来た際に増水し,その時の水の流れが反映されたものである。(画像右側が上流)

 潮岬火成複合岩体

潮岬は本州最南端に位置し,数種類の火成岩からなる火成複合岩体として知られている。周辺の熊野層群の泥岩層は侵食を受けやすいが,火成岩類は硬く侵食を受けにくいものが多いため紀伊半島の南端に出っ張ったように残っている。
火成複合岩体は酸性岩及び塩基性岩がそれぞれを互いに伴い,噴出岩と貫入岩が交互に活動した火山ー深成岩複合岩体をなしている。

潮岬ではまず潮岬灯台周辺で観察を行った。ここでは玄武岩質溶岩の露頭,花崗斑岩の露頭,粗粒玄武岩などが観察できた。

潮岬灯台の基盤となる玄武岩質溶岩は噴出相である。粗粒玄武岩とは異なり斑晶は確認できず,細粒で緻密な岩石である。

海岸線の露頭では粗粒玄武岩の観察を行った。玄武岩質溶岩とは異なり白い斑晶が確認できる。これらは玄武岩質溶岩の噴出後に貫入した岩石であると考えられている。

また玄武岩の表面に薄緑色の鉱物が付着したものがあった。この薄緑色の鉱物はオリビンであると考えられ,地下深くのマントルの物質が付着していると考えることができる。

潮岬灯台をあとにし東進して浪ノ浦西側まで移動した。ここでは斑糲岩の露頭が観察でき,この斑糲岩は粗粒玄武岩貫入時に伴ってきたブロック岩体である。結晶が針状であり,室戸の斑糲岩ペグマタイトと岩相が酷似していた。

その後さらに東進し,出雲崎周辺で粗粒玄武岩の観察を行った。潮岬灯台周辺で観察したもとと同じものであった。また花崗岩体によく見られる,マグマが冷え固まる際の残りかすが固まったアプライトも発見した。

潮岬で日没を迎え1日目が終了,串本町にある民宿南紀に宿泊し,夜ごはんに萬口で名物のカツオ茶漬け満腹セットを食し2日目に備えた。

 橋杭岩

橋杭岩は熊野層群に貫入した石英斑岩からなる。串本から大島に向かって約850mの列をなしており,大小40余りの岩柱がそそり立っている。
その規則的な並び方が橋の杭に似ていることからこの名前が付いた。
貫入した石英斑岩は熊野層群の泥岩層よりも侵食に強いためにこのように侵食されずに残っている。

2日目は朝8時に宿を出発し,橋杭岩に向かう。この日は大潮であったために潮位がやや高い状況ではあったがなんとか貫入岩までたどり着けた。

橋杭岩を一望した写真。奥の岩柱が侵食されずに残った貫入岩であり,手前の転石は津波によって動かされた貫入岩の転石である。

大島に向かって撮影した一枚。貫入してきた面を推定できる。

橋杭岩を撮る人を撮ったフォトジェニックな一枚。大学院の巡検に自ら参加する地学研究室のHOPE。

貫入岩と基盤岩の境界面,貫入岩のそば数センチが焼かれていることがわかる。変成を受けた範囲から貫入がんのおおよその温度を推定できそうだ。

貫入岩表面には波状構造がみられる。この波状構造はマグマが貫入する際に泥岩との間で生じた剪断構造である。剪断された方向から貫入の方向がわかる。また表面に付着している黒い部分は熱変成を受けた泥岩である。

 戎島

戎島はすさみ町見老津漁港そばに位置し,牟婁層群に含まれる。牟婁層群は付加体堆積物であるが,それらに火成岩岩脈が貫入している様子を観察できる。

画像中央の出っ張りが案内板にもあった火成岩脈と考えられる部分である。古座川の弧状岩脈と同等の成因ではないかと推定され,凝灰岩の一種である。

境界面がはっきりせず我々を悩ませた。境界と思われる部分の試料を持ち帰り薄片としたが,どれも砂岩に見えてしまう。勉強不足である。

 フェニックスクリフ

フェニックスクリフは、海溝に形成された砂岩泥岩互層がフィリピン海プレートの沈み込みに伴って陸側に付加されるときに受けた強い力でできた。

中学校理科の教科書で褶曲の例として紹介されており、世界の地学研究者が注目するほど有名なもの。ぜひ一度は、この目で確かめたい。

海底に堆積した地層(牟婁層群:約50~20Ma)が崩れて、海溝に海底扇状地を形成したことを示す砂泥互層が発達している。

グニャリと折れ曲がる様子から、完全に固結する前に変動を受けたスランプ褶曲であることがわかる。

壮大な大地のパワーを感じながら食べる昼食は最高であった。

 オン崎

オン崎は牟婁層群中に位置し,南側の波食棚では付加体を特徴付ける低角な逆断層であるスラストを観察できる。

オン崎への道のりは廃ホテルへの案内を基に進もう。港側からマップに従って進むと脱輪,車に傷が入ったり辛いことになります。

波食棚まで下ると,廃ホテルを上部に眺める形になる。文献によるとホテル下の海岸でスラストを観察できるとのことなのでそこまで突き進む。

地層の傾斜を調べると,ほぼ垂直であることがわかる。そのためスラストは足元にあるはずだと探すこと少々。写真のような小規模のスラストを発見した。これはランプフラット構造の一部であると考えられ,自身が自身に乗り上げているような構造となっている。

またスラストを探していると,規模の大きなビーチロックを発見した。

 シガラミ磯

シガラミ磯では、数多くの堆積構造や生痕化石を観察することができる。

海岸沿いに砂岩泥岩互層がつくる綺麗な縞模様が観察できた。

未固結の砂岩層が乱されてできたスランプ構造が観察できた。地震やそれに伴う海底土砂崩れがあったことがわかる。

いたるところに生痕化石が。

塩類風化でできたタフォニである。この3日間で最大級かもしれない。

ここで日没間近。2日目が終了した。宿へ向かう途中に、夕陽撮影スポットを発見したので撮影会。

 千畳敷

千畳敷では、波の侵食によってできた波食台が幾度もの隆起で海岸段丘を形成している。観光地としても名高い。

景色に目を奪われそうだが、堆積構造に注目する。

リップルが複数箇所で確認できた。

何やら気になる地層を発見。拡大してみる。

全体的にタービダイトが見られる。上下を平行層理に挟まれるように中央部には斜交層理がみられる。

楽しそうに見えるが、決して、旅行ではない。

 白浜の泥岩岩脈

国指定天然記念物になっているこの岩脈は、未固結または半固結の白浜累層に対し、朝来累層起源の砂泥が貫入したと考えられている。

案内看板を海岸沿いにしばらく進むと、大小様々な岩脈が確認できた。

泥岩脈ではあるが、砂質成分が多いように感じられた。

看板には、地震による液状化現象によって貫入したとの記述があったが、宮田ほか(2009)によれば朝来累層中のメタンハイドレートの分解による流体発生の可能性を指摘している。

・宮田雄一郎・三宅邦彦・田中和広 (2009): 中新統田辺層群にみられる泥ダイアピル類の貫入構造.地質学雑誌,115,470-482.