地球と月の共通重心
潮汐力とは,地球の海水に干潮・満潮の潮汐を発生させる力であり,下図に示すように月の引力と,地球と月がお互いの共通重心を回る際に生じる慣性力との合力により生じる。
もし互いの質量がほぼ等しい場合,公転運動の共通重心は,地球と月のほぼ真ん中に位置する。ところが月と地球は平均して約38万km離れており地球の方が約80倍重たいので,共通重心は1:80のところにある。計算すると地球の中心から約4,691km,半径6,400kmの地球の中心から2/3の位置に存在することになる。
起潮力を理解する上で必要な,地球と月の共通重心を中心とした回転運動に関して誤解が多く,大学生でも正しく理解するのに時間を要する。
よくあるのが,下の図に示すように地球と月が見えない棒で連結されたかのように回転するという誤解。図を印刷して、共通重心の所に押しピンを刺して紙を回転させるイメージ。共通重心より月側にある地球の表面では、月の方に遠心力が働くことになる。
下の図では月が1公転するたびに地球も1自転してしまっている(月は公転周期と自転周期がほぼ等しくなっているので、1公転につき1自転するので正しい)。日常では,回転運動というと,このような1点を軸として回転する運動が多いので無理はないと思う。
(図をクリックして,図上でマウスを操作するとアニメーションが表示されます)
起潮力を考えるときの「地球と月の共通重心を中心とした公転運動」は,下の図に示すように月の公転に伴って,地球は位置を変えながらフラフラと揺すられて円運動をするものの、地球自体は回転していない!。
このような動きは“並進円運動”と呼ばれ,イメージとしては,ピンク色の円で示した溝が地球の裏側にあり,その溝を共通重心という爪にはめて、ぐーるぐると手に持ったまま回転させるようなイメージの運動である。
(図をクリックして,図上でマウスを操作するとアニメーションが表示されます)
並進円運動と呼ばれる動きをよく理解するため,地球のそれぞれの場所に赤・青・緑・黄色のポイントを設けて、「地球と月の共通重心を中心とした公転運動」に伴う各ポイントの軌跡を描いてみると、各点はそれぞれ同じ大きさの軌跡を描く(半径や速度は等しい)が,それぞれ中心点が異なる円運動をしていることがわかる。
共通重心で振り回されることによって,月がおよぼす万有引力とは反対向きに発生するのは,この円運動に伴って生じる慣性力である。
地学の教科書等では月とは逆向きに生じる力の説明として「地球が共通重心の周りを回る円運動に伴う遠心力」とされているケースが多い。ところが,遠心力を求めるためには回転の中心が必要で,さらに中心からの距離に依存して変化するはずの力なので,地球上の各点が,それぞれ中心点が異なる円運動をする”並進円運動”によって生じる力を,遠心力として説明するのは正しくないことがわかる。
(図をクリックして,図上でマウスを操作するとアニメーションが表示されます)